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杉原音（有村架純）は、幼い頃にひとり親だった母親を亡くし、その後は育ての親の林田夫妻に引き取られて、北海道の田舎町でひっそりと暮らしていた。
義父の雅彦(柄本明)は音をまるで家政婦のように扱い、寝たきりの義母・知恵(大谷直子)の面倒を見させていた。音は、そんな介護に明け暮れる日々をただ受け入れて、諦めて生きていくしか方法はなかった。
一方曽田練（高良健吾）は、福島で祖父・健二(田中 泯)の元で、人を疑うことなど知らずに成長した。そんな練が東京で引っ越し業者の仕事に就いたのは、祖父が騙されて畑を失ってしまい、それを買い戻すために、上京してきたのだ。しかし、東京の生活は甘くなく、安月給で働かさる上に貯金もまともにできず、おんぼろアパートで先の見えない生活を続けている。なのに、お人好しの練は安易に人を信じすぎるために、気づけばしなくていい借金までたびたび作ってしまう。練の恋人・ 日向木穂子（高畑充希）は見かねて、練にお金の工面もしているが、練は戸惑いながらそれを断ることもできずにいる。
ある日、練の友達で・中條晴太（坂口健太郎）が、北海道旅行の途中で拾ったカバンから、古い手紙を発見する。練は宛名が「音へ」と記されたその手紙を読むと、この手紙は必ず持ち主に返すべきものだと感じ、会社のトラックのままで北海道へ急いで向かうことに…。

全体的に少し重い内容のドラマですが、心に響く内容のドラマで印象に残っています。登場人物が皆、辛い過去や悩みを抱えていて、それでも懸命に明るく生きようとする姿は、共感できますし心に響くものがありました。シンデレラストーリーとか明るく夢がある内容のドラマも良いですが、現実の日常生活は良いことばかりではないし、悩んだり落ち込んだりすることは多くあります。そこに寄り添ってくれるようなドラマで、私はとても好きでした。また、日常の小さな幸せの大切さを感じることのできるドラマでした。主人公の音が介護福祉士ですが、このドラマを視聴していた頃に私自身も介護の仕事をしていた為、それもドラマに入り込んで楽しめた要因かもしれません。主要なキャストは、現在活躍されている演技派の方ばかりなので、とても豪華でそこも見どころだと思います。

注目キャストは、有村架純さんです。有村さんの演技は色々な作品で拝見していますが、私はこの作品の音の演技がとても好きです。音は心がとても澄んだ人で、どこまでも良い子だし、辛いことがあってもいつも笑顔で懸命に生きていて、人の綺麗な部分を集めたような人物像の役ですが、この役がとても似合っていたと思います。とても魅力的な人物像の役ですが、良い子を演じている感じでもなく自然な演技でした。また、音は過去も現状も辛い状況を生きていたと思うのですが、そんな中でも笑顔を絶やさずに懸命に生きる姿が、痛々しくならずにキラキラして魅力的に見えたのも凄いと思っていました。他の登場人物との会話のシーンで、スローテンポで少し間があるような、溜めたセリフの言い方だったことも、思慮深い音の人柄を表しているようで好きでした。

主演の二人の素朴な姿を描いたドラマです。音（有村架純）と練（高良健吾）が主演ですが、音は残業が出なかったり、同僚からシフトの交代を頼まれ連続勤務時間を超過して体調を崩すような福祉施設に勤務していました。一方、練は先輩から暴力を振るわれたり、ミスを押し付けられる運送業者にそれぞれ勤務しており、イメージがあまりよくありません。しかし、それは二人が純粋な心を持った人間を描くためであり、子犬の世話をすれ違いながら行うシーンはほっこりしたのを覚えています。お互いの気持ちを尊重しすぎるあまり、好きなのにすぐに距離を縮められないのは歯がゆい一方で、思春期の恋愛を見ているようで毎週何とも言えない気持ちになったのを覚えています。

練（高良健吾）が第3話あたりで「電車待ちをしていた人が人身事故を聞いたときに「チッ」っと舌打ちをして何と表現して良いか分からない気持ちになります」と音に気持ちを語った場面が印象的でした。普段の生活で人身事故はよく聞きますが、この練の気持ちが人となりを表しています。どれだけ嫌な思いをしても思いやりの心を持って接する姿に、自分を見つめ直そうと思いました。また、練や彼女の木穂子（高畑充希）が集う仙道静恵（八千草薫）の家は、みんなのおばあちゃんのようで、楽しいとき落ち込んでいるときに相談できる人柄が魅力的です。自分の人生にも近所にこんなに優しいおばあちゃんがいたら、もっと楽しく過ごせたんだろうなと思います。

東日本大震災の前と後で、主人公たちの環境や生き方が変わっていくので、壮大な人生ドラマを見ているようで面白いです。特に、練（高良健吾）の変わりようが凄くて、彼を助けようとする音（有村架純）の頑張りがとても健気で印象的でした。震災によって人が変わったように思えても、実際の根っこは何も変わっていないんじゃないかといろいろ考えさせられた作品でもあります。暗い部分や人間不信になりそうな部分もたくさんあるけど、それでも人との絆っていいものだと気づかせてもらえる名ドラマです。また、今活躍している若手俳優たちが勢揃いしていて、ゲスト出演の俳優さんたちも今では売れっ子ばかりなので、その辺に注目してみるとより楽しめる作品だと思います。

一番注目して欲しいのは、練（高良健吾）が働く運送会社の先輩・佐引穣次です。これを高橋一生さんが演じているのですが、人の物を盗むような悪役で、しかもプリン頭の金髪姿なので今とはかなりギャップがあります。どちらかというと、冷酷でクズな性格なのですが、彼にもいろいろと抱える事があって、その辺の事情が分かってくると、なんだか泣けてきてしまいました。しかも演技がかなり上手いので、彼が画面に映るだけで凄くドラマが引き締まって見えます。震災前と震災後で佐引の風貌も変わっているので、その辺を比較して見てみるのも面白いです。震災後のシーンでは、人が変わった練を助ける架け橋のような役割をしてくれるので、この辺も見どころの1つだと思います。